[プライベート]中澤教授の退任式

ゼミの教授の退任式に出席した。

事前に特設ホームページが作られ、You Tubeに投稿された先生の挨拶が貼り付けられてある。
出欠の一覧もウェブで確認でき、まだ携帯電話さえ持っていなかった学生時代とは隔世の感。
先生も年を取るはずだと妙に納得した。(外見は全然変わっていなかったのだけど)


先生には大学1年で必修のマクロ経済学を教わり、理論に終始するのではなく現実の経済が大切という考え、静かながらウィットに富む語り口、決して偉ぶらない姿勢、冷静な中に熱さを持つ態度などに魅了された。3年になりゼミを選ぶ時に知名度や人気で選ばず、中澤先生の産業組織論を選んで良かったと思う。


退任式は最終講義とパーティーの2部構成。

入場で並んでいると先生が登場。少し遅れ、年に一度手料理をごちそうになった奥さまが素敵な和服でいらっしゃった。
「こんな時でもスタスタと一人だけ行っちゃうんですのよ。待ってもくれないの」
って、いいんですか先生それで(笑)。


最終講義も中澤先生らしくハーバード学派とシカゴ学派の話。

・誤った経済学の破壊的効果は大きい。(金本位制社会主義経済、金融工学・・・)

・ハーバード学派は政治的にはシカゴ学派に敗れたが、私の考えはハーバード学派に近い。

シカゴ学派のスティグラーはダースベーダーのようだ。理論的には詳細まで詰めてあり隙がない。相手を完膚なきまでにやりこめる。ただし、そもそも人間は完璧に合理的な選択をするという前提に無理があるのではないか。私の例を見ても迷って失敗ばかりだ。もちろん、人間は合理的な選択をするというような仮定がなければなんでもありになってしまい、何も論ずることができなくなるのだけれども。

アメリカの独禁法は日本のものとは違い、どのような行為が独禁法に違反することとなるかはあまり具体的に書いていない。ある行為が独禁法違反になるかどうかは裁判所が決定する。「Judge made Economics」ということだ。1992年のブッシュ(父)の時代の判例と、1982年、1984年のレーガンの時代の判例はだいぶ違う。

アメリカの独禁法の目的は消費者利潤の最大化だ。これは中小企業者の利得と反することがある。(注・日本では中小企業の振興が政策として行われることが多い。これは独禁法の目的とは矛盾する)

・教授会でゼミの廃止について議論となったことがあった。時間ばかり取られて研究の役に立たないというのだ。私は猛反対した。ゼミほど研究に役立つものはないと。そしてゼミは存続した。私は今、私が間違っていたと思う。(場内爆笑)

・ゼミはだいたい14人前後とした。その中で学問的に優秀だったのは1名くらいだった。ただし性格や態度など、光るものを持っている学生はたくさんいた。内部進学者については、特に英語の単語力が不足しているケースが多かった(^^;)。ただし受験勉強で疲弊していないためのびのびとしており、元気な者が多かった。こういう教育も良いものだと思う。(ホッ)

・最初の頃は私も若く、厳しいことばかり言っていた。あるとき気づいた。学生は産業組織論に興味をそれほど持っていないのだと。その後は産業組織論を外れることでも、学生の興味のあることを研究させることにした。

・65歳とはいえ元気なので、もう少し働きたいと思った。大学の仕事はだいぶやったので、他の仕事は何かないかと思いハローワークに行ってみた。65歳以上は2階だと言われ2階に行ってみたがあまり魅力的な仕事はなさそうだった。(ハローワークの担当者も大学の教授がきてビックリしただろう)考えた末、仕方がないので他の大学でもう少し経済学を教えることにした。今後はゼミを持たないので、生きた経済のことを教えに来てほしい。

と、いろいろ脱線しながら講義をされた。大学生に戻ったようでとても懐かしかった。


パーティーの挨拶では

・私はおとなしく見られるが、結構かっとなりやすい性質でずいぶんといろいろな人とやりあってきた。大学1年のときに語学の先生と論争になり、「あなたは絶対に将来企業で出世しない!」と言われた。そして私は大学に残ることにした。

・ある日バスの中で、よくやり合っていたマルクス経済学のI教授(女性)に「あなたは絶対に結婚できない」と言われた。だから私は結婚した。

などのエピソードを話して下さった。
最後は若き血で締め。
先生、長い間お疲れさまでした。ありがとうございました。


最後にもう1つ御礼を。
就職活動をしていた頃のこと。私が最初に内定を頂いた外資系の会社で教授の推薦文が必要でした。あの時に先生が書いて下さった文章は私の宝物で、いまでもコピーを大切に持っています。
本当にありがとうございました。
今後のご活躍も楽しみにしております。