浮いたり沈んだり


先崎学の浮いたり沈んだり

子どもたちを図書館に連れて行ったときに、ふと手に取った本。
著者は棋士である先崎八段。
数少なくなった昔ながらの博打好きの勝負師で、近頃流行り(そして強い)データ重視の棋士とは一線を画す存在。


文芸春秋の週イチ連載を約1年半分まとめた書籍なのだが、「ここまで赤裸々に書いて企業秘密をバラしてしまったら勝負に影響するのではないだろうか」と思うくらいに心情がそのまま綴られる。(そのせいかどうか、当時A級に在籍していた先崎八段が現在はB級2組である)
「一勝すれば,自分は天才,名人十期は固いと思い,一敗すれば引退を考える」棋士に負けがこんだ時の七転八倒は面白くも切ない。
勝負事はかけるものが大きくなるほど負けた時にしんどい。
プライド、序列、生活など人生そのものをかけている棋士が負け続けているときは真っ暗闇でクモの糸さえ見えないに違いない。


高校1年の夏、棋道部に籍を置いていた僕は団体戦に出場したことがある。
定石を覚えるのが嫌いでその場の思い付きだけで指していたが、入部した当初は定石に暗いことも知られておらず、先輩の強さも知らなかったためか部内で割と良く勝っていて、団体戦のお鉢が回ってきたのだったと思う。

3人勝ち抜きの団体戦
僕の対局以外は全て終わり2勝2敗。
多くのギャラリーがずらりと周りを囲み、異様な熱気の中で残り時間逼迫、秒読みとなっていた・・・。
形勢はやや良し、中盤終りの難所で、時間があれば10分でも20分でも読んでいたい場面。
でも現実は過酷で対局時計が「プップップッブーーーーー」と残り10秒、5秒を告げ、頭の中は真っ白に。
震える手で指した1手が「これで決まり!」というような決定的な悪手で負け。
同時に団体戦の敗退も決まる。。。


相手チームの歓声。自校のチームは誰も動かずひと言も発しない。ため息一つつく者もいない。。。


20年たつ今考えれば、青春の1ページ。
人生の中の貴重な経験。
でも当時、僕は将棋を指せなくなった。
皆の期待、そして何より自分への期待に応えられなかったという思いにペシャンコになってしまったのだと思う。将棋を指すことが楽しくなくなってしまった。

その後、将棋を再開したのは社会人も数年たち、転職も経験しすっかり大人になってからだ。


さてプロの将棋指し。高校生だった僕と違い、将棋をやめてしまう訳にはいかない。
対局までの葛藤。対局中の心のゆらぎ。勝負のつく瞬間。終了後の夜。。。
人生は人それぞれにドラマですね。


☆☆☆☆ 星4つ。