ローマ人の物語34 迷走する帝国(下)

人間世界では、なぜか、権威失墜の後に訪れるのは、残されたもの同士の団結ではなく、分裂である場合が圧倒的に多い。束ねる役割を果していた存在が消滅したことによって、それまで自分たちよりは上の存在によって束ねられていた人々は、いったんはバラバラになるしかないのかもしれない。
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力(パワー)に関与しなくなれば統治力も失われる
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抜擢した人材に対しては思い遣りも効果あるが、抜擢された人にとって最も嬉しいのは、第一線で活用してくれることである。
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不幸や逆境に苦しんでいる人々にとって、最後の救いになり慰めになるのは希望であると、最盛期時代のローマ人であったセネカでさえも言っている。
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キリストの神は人間に、生きる道を指し示す神である。
一方、ローマの神々は、生きる道を自分で見つける人間を、かたわらにあって助ける神々である。絶対新と守護神のちがいとしてもよい。しかし、このちがいが、自分の行き方への確たる自信を失いつつある時代に生れてしまった人々にとっては、大きな意味をもってくることになったのだった。
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キリスト教がその後も長きに渡って勢力をもちつづけているのは、いつまでたっても人間世界からひさんと絶望を追放することができないからでもある。
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