ローマ人の物語35 最後の努力(上)

自らの限界を見極める能力はあり、またそれに基づいて方針を立てる能力はあっても、それを時を無駄にすることなく実行に移すには、いさぎよさ、としてもよい姿勢が求められる。
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危機の状態から脱しようとするときには、最も本源的な命題にもどったうえで策を立てる必要がある。これは、最優先事項からはずれないためにも有効なやり方だ。当面の課題の解決を期すことは重要だが、それらに眼をとられるあまりに最重要目的を見失う危険があるからだった。「四頭政」は、まずはこの、最重要課題であり本源的な命題を頭に置いて、考え出されたシステムであったと思う。
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平和は、人間世界にとっては最上の価値なのである。ただし、何もしないでいれば、それはたちまち手からこぼれ落ちてしまうのだった。
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真の問題は、蛮族のほうにローマ化する気がなくなったことであり、ローマ帝国自体もまた、ローマ的でなくなったことのほうにあったのだ。
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ローマ式の街道網の存在理由の第一は、帝国の各防衛線に沿って配置されている軍団の敏速な移動を可能にすること、にあったのだ。「四頭制」がもたらした結果の一つは、この流動性を、間に壁でも立てたような感じで立ち切ったところにある。そして、融通し合うシステムでなくなれば、待っているのは自下の軍事力の増強しかない。
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代議員制度がイギリスで始まるのは、一千九百年も後のことなのだ。直接民主制が機能するか否かは、有権者の数とその人々が住む地の広さに影響されないではすまないのである。
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人間とは、一つの組織に帰属するのに慣れ責任をもたせられることによって、他の分野からの干渉を嫌うようになるものなのである。
(124〜125ページ)

私には、「パクス・ロマーナ」の樹立とその長期にわたる維持の功績は、圧倒的に強大で機能性の高かった軍事力に劣らないくらいの重要さで、税制にもよっていたと確信している。税制とは単なる税金の話ではなく、政治の良し悪しを決める計器でもあるのだから。
(132〜133ページ)

忘れてならないのは、当時は間接税の世界であったことだ。ゆえに、累進課税的考えは生れようがない。それでいて、間接税の税率は低い。この状態を放置すれば、金持はより金持になり、貧乏人はますます貧しくなる。社会不安の源になりやすい貧富の差の拡大を阻止したければ、富裕層にカネを吐き出させるしかなかった。
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