ローマ人の物語9 ユリウス・カエサル ルビコン以前(中)

野心とは、何かをやりとげたいと思う意志であり、虚栄とは、人々から良く思われたいという願望である。
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文章を表現手段に選んだ者は、自分が書くことの理解が所詮は読む人次第であるのは知っている。
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敵地で闘う総司令官にとって最も直接的な課題は、戦闘指揮とほとんど同じ比重をもつ重要さで、兵糧確保がある。戦争は、死ぬためにやるのではなく、生きるためにやるのである。戦争が死ぬためにやるものに変わりはじめると、醒めた理性も居場所を失ってくるから、すべてが狂っている。生きるためにやるものだと思っている間は、組織の健全性も維持される。その最もはっきりした形が、一兵卒にもわかるようにはっきりした形が、食料の確保だった。
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文化は、各人のものであり、それをどう考えるかは各人の自由である。しかし、文明は、人種も肌の色も風俗習慣も異なる人間同士が共生するに必要なルールは、各人勝手で自由として済ませるわけにはいかない。ゆえに、平易に言えば、生きるマナーに過ぎないことなのに、文明という仰々しい文字を冠せられることになるのである。
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