ローマ人の物語26 賢帝の世紀(下)

被統治者が贈りたいと思うものを受けるのも、統治上の一策なのである。
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ハドリアヌスが人質であったパルティアの王女を返還したことをうけ)外交も戦闘に似て、相手側が予想もしなかった戦術で攻めたときに勝つ。つまり、最も大きな効果を産む。このときの会談で、中東の平和は確認された。
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戦時に良く機能する組織は平時にも同じように機能するとはかぎらないが、平時に十全に機能する組織は戦時にも機能できるのである。治世の大半を使っても帝国の辺境を視察し巡航しつづけたのも、ハドリアヌスが、平時でも十全に機能する防衛体制の確立を目指したからであった。
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もしもあなたが、自由の中には選択の自由もあると考えるとしたら、それはあなたがギリシア・ローマ的な自由の概念をもっているということである。ユダヤ教徒の、そして近代までのキリスト教徒にとっての自由には、選択の自由は入っていない。
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カエサルユダヤ民族の孤立を防ぐ必要を感じたのは、人道上の理由からではない。孤立は、過激化の温床であったからにすぎない。
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マキアヴェッリによれば、リーダーには次の三条件が不可欠になる。「力量」(Virtu)、「幸運」(Fortuna)、「時代への適合性」(Necessita)である。
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「責任を果していない者が報酬をもらいつづけることほど、国家にとって残酷で無駄な行為はない」
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このような環境の差を考慮してもなお、ハドリアヌスとアントニヌスの性格のちがいはおおうべくもない。元気な頃でもハドリアヌスは、暖かい陽光を浴びせて相手の緊張感を解くことも、静かに冴えわたる月光によって相手の気分を落ち着かせることも、できない性格のひとなのであった。
(164〜165ページ)

ハドリアヌスとアントニヌスの性格のちがいはおおうべくもない。元気な頃でもハドリアヌスは、暖かい陽光を浴びせて相手の緊張感を解くことも、静かに冴えわたる月光によって相手の気分を落ちつかせることも、できない性格の人なのであった。だが、この性格であったからこそ、真の意味でのリストラクチャリング、つまり再構築を、成し遂げることができたのだ。人格円満な人が、大改革の推進者になる例はない。
(164〜165ページ)

私は何度でもくり返す。人間にとっての最重要事は安全と食の保証だが、「食」の保証は「安全」が保証されてこそ実現するものであるということを。ゆえに、「平和」が最上の価値であることを。
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