ローマ人の物語31 終わりの始まり(下)

軍隊とは、ローマ時代にかぎらずどの民族でもいつの時代でも、恵まれない生れの者にも門戸が開かれていた、数少ない実力主義の組織である
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「小事」まで批判を受けてはならぬという想いで進めると、「大事」が実現できなくなる。大胆な改革を進める者には、小さなことには今のところは眼をつむるぐらいの度量は必要であった
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十人の人間を前にして、道理を説くだけで納得にもっていくのは、むずかしいことではない。だが、これが百人になるとむずかしくなる。千人になると不可能だ。近衛軍団は一万の集団だった。だからこそアジテーターが横行することになるのだが、その横行を許さないで万単位の人間を掌握するには、何か別の要素が必要になってくる。人はそれを、カリスマという。だが、カリスマも、時を逸しては効果がないのだった。
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実力主義にはプラス面も多いが、人間社会の他のすべての事柄と同じでマイナス面もある。実力主義とは、結局は実力でカタをつけるしかない解決法なのであった。
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孤立感はそれを感ずる者の間での結束につながるからであり、その行きつく先は、他とのバランスを忘れた暴走以外にはないからである。
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もしかしたら人類の歴史は、悪意とも言える冷徹さで実行した場合の成功例と、善意あふれる動機ではじめられたことの失敗例で、おおかた埋まっていると言ってもよいのかもしれない。
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