海の都の物語(3)

現実主義者同士の間でならば、妥協は常に成立する。
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ヴェネツィア人は、ライヴァルのジェノヴァ人と比べて、船乗りとしても商人としても、また海軍軍人としても少しばかり差をつけられていたけれど、組織づくりにかけては、断じて優れていたのであった。
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能力には、それにふさわしい報酬が与えられてこそ、彼らも、その才能をより以上に発揮する気持ちになるというものである。
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戦争は悲惨なものである。しかし、その戦争にも、一つだけ効能がある。複雑化していた人々の欲望を単純化するという効能である。
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キオッジアの戦いを頂点とする第四次ジェノヴァヴェネツィア戦役でヴェネツィアが得たものは、ただ単に、国民全体の意見の一致、という一事でしかない。しかし、これは、ヴェネツィアが再び立ち直るに際し、最も役に立つ”戦果”となった。
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すべての国家は、必ず一度は盛期を迎える。しかし、盛期を何度も持つ国家は珍しい。なぜなら、一度の盛期は自動的に起るが、それを何度もくり返すのは、意識的な努力の結果だからである。
・・・長期にわたったヴェネツィアジェノヴァの対立の末のヴェネツィアの勝利は、海軍の力とか海戦の技術とかによるのではない。ヴェネツィアは、一二七〇年以後、この面での優位をもはや持ち合わせていなかった。
勝利を決した因は、別の方面での両国家の能力の差にある。つまり、社会を組織する能力である。この能力では、ヴェネツィア人とジェノヴァ人の間には、非常な差が存在した。
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